おなじ時間

 

その家は、いつからか
静かなすれ違いの場所になっていた。

 

夫は仕事で帰りが遅く、
子どもたちはそれぞれの予定で外へ出て、
家にいても、スマホの中にいる。

 

夕食の時間も、
帰宅する時間も、
眠る時間も、ばらばらだった。

 

リビングに明かりはついているのに
誰もいないこともある。

 

妻は、そんな日々の中で
何度も声をかけていた。

 

「今日、少し早く帰れない?」


「たまには一緒にごはん食べない?」

 

でも、その言葉は、
それぞれの忙しさの中に
静かに消えていった。

 


 

ある日の帰り道。

 

スーパーの裏手で
小さな鳴き声が聞こえた。

 

段ボールの中で、
一匹の子猫が震えていた。

 

迷ったけれど
気づけば抱き上げていた。

 

そのまま病院へ連れて行き
診てもらう。

 

「まだ小さいですね。しばらくは目が離せませんよ」

 

そう言われて
預ける場所も見つからず

そのまま家へ連れて帰った。

 


 

最初に気づいたのは、子どもたちだった。

 

「え、猫?」


「どこから来たの?」

 

普段はそれぞれの部屋にいるはずの二人が
同じ場所に集まっていた。

 

小さな体をのぞき込みながら
自然と会話が生まれる。

 


 

その日の夜。

 

夫が帰宅すると
珍しくリビングに家族が揃っていた。

 

「ただいま」

 

そう言うと
子猫が小さく鳴いた。

 

その声に
みんなが同時に笑った。

 


 

それから、少しずつ。

 

「ごはん、誰かあげた?」


「今日は病院の日だよ」


「名前、どうする?」

 

そんな会話が増えていった。

 

誰かがリビングにいる時間が増え
自然と、もう一人もそこに来る。

 

気づけば、
同じ時間に同じ場所にいることが
少しずつ増えていた。

 


 

ある日の夕食。

 

久しぶりに
家族全員がテーブルを囲んでいた。

 

特別なことは何もない
いつものごはん。

 

でも、その時間は
どこかあたたかかった。

 


 

妻は、ふと思う。

 

あの子は
ただここに来ただけなのに。

 

何も言わずに
ただそこにいるだけなのに。

 


 

気づけば
ばらばらだった時間が
少しずつ重なっている。

 


 

テーブルの下で
子猫が丸くなって眠っている。

 

そのぬくもりを感じながら、
妻はそっと思った。

 


 

「この子が、
 家族の時間を連れてきてくれたんだね」

 

おなじ時間
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