トラとわたしの毎日

 

あぁ、私ですか?


今年83才になるんですよ。


ここは古いけど40年前に亡くなった夫が建ててくれたおうちでね。

 

田舎だから、まわりは畑ばかりで
風の音と鳥の声くらいしか聞こえません。

 

でもね、ひとりじゃないんですよ。


トラがいるから。

 


 

トラはね、雑種なんですけど、
娘が8年前に連れてきてくれてね。

 

「お母さん一人じゃ心配だから」って。

 

最初はね、正直ちょっと戸惑いましたよ。


自分のことで精一杯なのに
この子の面倒まで見られるのかしらって。

 

でも、気づいたら

この子中心の生活になっていましたね。

 


 

朝になると
トラが先に起きて
私の顔をじっと見てるんですよ。

 

「そろそろ起きる時間だよ」って言いたげにね。

 

それで一緒に外に出て
ゆっくり、ゆっくり歩くんです。

 

昔みたいにスタスタは歩けませんから
トラもちゃんと分かってるみたいで
私の歩幅に合わせてくれるんですよ。

 


 

帰ってきたら
縁側で一緒にひと休み。

 

私はお茶を飲んで
トラは気持ちよさそうに寝転んで。

 

そのまま、二人でうとうとすることも多いですね。

 

特別なことなんて、何もないけど
この時間がいちばん落ち着きます。

 


 

この子ね、あまり吠えないんです。

 

でも、私が台所に立つと
いつの間にか足元にいて。

 

何も言わないのに
「ちゃんと見てるよ」って顔をするんです。

 

不思議ですよね。

 


 

娘がね
「お母さんに何かあったら、トラはうちで引き取るから」って
言ってくれてるんです。

 

ありがたいことですよ、本当に。

 

でもね、できれば――

 

できれば、この子の最期は
私が見届けてあげたいなって思うんです。

 


 

ただ、こればっかりは分かりませんからね。

 

私の方が先かもしれないし
トラの方が先かもしれない。

 

考えすぎると、少しだけ怖くなることもあります。

 


 

でもね
そんなことばかり考えてても仕方ないでしょう?

 

今、こうして隣にいて
同じ時間を過ごしている。

 

それだけで、もう十分なんだと思うんです。

 


 

ほら、今もあそこで寝てるでしょう。

 

さっきまで一緒に散歩して
満足したみたいでね。

 

ああいう顔を見ていると
なんだかこちらまで安心するんですよ。

 


 

大したことは何もない
ただの毎日なんですけどね。

 

でも
この子と過ごす時間は
どれもちゃんと、あたたかいんです。

 

トラとわたしの毎日
一覧に戻る

コメントを残す

コメントは公開前に承認される必要があることにご注意ください。