小さい頃、
放り投げたボールを
君は何度でも
走って取りに行った。
「もう一回!」
そう言うたびに、
嬉しそうに尻尾を振って、
また駆け出していく。
夕焼けになるまで、
ふたりで夢中になって
遊んでいた。
あれから、
何年も過ぎた。
高校生になった僕は、
久しぶりに庭へ出て、
昔みたいに
ボールを投げた。
君はゆっくり歩き出した。
途中まで行って、
ボールの前で立ち止まる。
少し困ったような顔で、
僕を振り返った。
「もう無理だよ。」
そんな声が
聞こえた気がした。
僕はボールを拾うと、
今度は、
君のすぐ近くへ
そっと転がした。
君は嬉しそうに
くわえて、
ゆっくり、
僕のところまで歩いてくる。
その顔は、
子どもの頃と
何も変わらなかった。
遊び方は変わった。
走る速さも、
過ごす時間も、
少しずつ変わっていく。
でも、
届く距離へ転がしたボールは、
今日もちゃんと、
君の楽しそうな姿を
僕のところまで運んできてくれた。