静かな朝でした。
風もやわらかくて、あの子が好きだった時間帯。
気づけば
いつもの散歩コースを歩いていました。
もうリードも持っていないのに
足は自然とあの道を選ぶんです。
あの角を曲がると
いつも少し足取りが軽くなっていたこと。
公園の手前で
急に立ち止まって匂いをかいでいたこと。
そんなことを
一つひとつ思い出しながら歩いていました。
「今日は犬いないの?」
近所の方に声をかけられて
少しだけ言葉に詰まりました。
でも
なぜか寂しさよりも先に
胸の奥があたたかくなって。
小さく、笑ってしまったんです。
見えないだけで
きっと今も隣を歩いている。
あの子の歩幅で、
あの子のペースで。
ふと立ち止まって
空を見上げると。
風が
あの子のしっぽみたいに揺れていました。
「ほら、ちゃんと一緒に歩いてるよ」
そう思えた日から
この道は――
少しだけ
やさしくなりました。