落とし物

 

掃除機をかけていた時だった。

 

カーペットの端に、
一本だけ毛が落ちているのを見つけた。

 

何度も掃除したはずなのに。

 

あの子が旅立ってから、
もう何ヶ月も経っているのに。

 

指先でそっと拾い上げる。

 

柔らかくて、
見慣れた色。

 

飼い主は思わず笑った。

 

「こんなところにいたの?」

 

返事はない。

 

けれど、
なぜだか少しだけ嬉しかった。

 

思い出は、
写真の中だけに残るものじゃない。

 

お気に入りだった毛布にも。

 

いつもの散歩道にも。

 

そして、

たった一本の毛の中にも。

 

あの子は、
ちゃんと生きていた。

 

飼い主は毛を掌に乗せたまま、
窓の外を見る。

 

もう触れられないはずなのに。

 

不思議と、
少しだけ触れられた気がした

 

落とし物
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