愛犬が亡くなってから、
初めての梅雨だった。
窓を打つ雨音を聞くたびに、
胸が少し苦しくなる。
だって――
雨の日は、
いつも一緒に散歩していたから。
玄関を出れば、
その子はうれしそうにしっぽを振った。
濡れることなんて気にもせず。
水たまりを見つけては、
子どもみたいにはしゃいでいた。
私は窓の外を見ながら、
小さくため息をついた。
その時だった。
玄関の棚の奥から、
古いリードがするりと落ちてきた。
手に取ると――
少し色あせた持ち手に、
懐かしい感触が残っている。
思い出したのは、
病院の日でも、
お別れの日でもなかった。
雨の公園で、
びしょ濡れになりながら走り回る姿。
水たまりを跳ねて、
振り返っては
「楽しいね」と言うみたいに笑っていた顔。
思わず私も笑っていた。
そうだ。
雨の日は、
悲しい日じゃない。
あの子と一緒に、
たくさん笑った日だった。
窓の外では、
今日も静かに雨が降っている。
私はそっとリードを握りしめた。
そして少しだけ、
雨音が優しく聞こえた。