いつでもおいで

 

夫が亡くなってから、

家の中は静かになった。

 

朝も、
昼も、
夜も。

 

聞こえるのは、
ソラの足音くらい。

 


 

「ただいまー」

 

ある日、
玄関から元気な声が響く。

 

「おばあちゃん、いる?」

 

ランドセルを置くより先に、
ソラが駆けていった。

 

しっぽを大きく振りながら、
女の子の周りをくるくる回る。

 

「ソラ〜、聞いてよぉ」

 

そう言って、
孫娘は床に座り込んだ。

 


 

学校のこと。

 

友達のこと。

 

お母さんには言いづらかったこと。

 

泣きそうな顔で話す日もあった。

 

ソラは何も言わない。

 

ただ、
隣に座って聞いている。

 

時々、
前足をそっと膝に乗せながら。

 


 

話しているうちに、
いつの間にか眠ってしまうこともあった。

 

ソラを枕みたいにして。

 

「重たいでしょうに」

 

そう言いながら、
女性は毛布をそっと掛ける。

 


 

この子には、
“帰ってこられる場所”がある。

 

それが女性には、
とても嬉しかった。

 


 

「ソラは優しいねぇ」

 

そう声をかけると、
ソラは眠っている孫娘の横で、
満足そうに目を細める。

 

まるで、

—— 大丈夫だよ

そう言っているみたいだった。

 


 

いつか大人になって、
悩む日が来ても。

 

苦しいことがあっても。

 

この子が、

“誰かに甘えていい”

ってことを忘れませんように。

 


 

夕焼けの部屋で、
女性は静かに笑う。

 

ソラも、
その隣でしっぽを揺らしていた。

 


 

いつでもおいで。

 

ふたりとも、
そう思っている。

 

いつでもおいで
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