「おかえり。」

 

就職してから、

実家へ帰る日は
少なくなった。

 

仕事に追われて、

「今度帰るね。」

そう言ったまま、

季節がひとつ過ぎてしまうこともある。

 

久しぶりに帰る日。

 

玄関のドアを開けた瞬間、

一番に駆け寄ってきたのは、

やっぱり、あなただった。

 

名前を呼ぶより早く、

嬉しそうに尻尾を振って、

何度も私のまわりを
くるくる走り回る。

 

その姿を見て、

お母さんが笑った。

 

「朝から何度も、

玄関へ行ってたのよ。

あなたを待っていたのね。」

 

そわそわしたり、

窓の外を眺めたり、

小さな物音がするたびに
玄関まで走って行ったんだって。

 

「まだかな。」

 

そんな顔をしながら。

 

犬には、

"久しぶり"

なんて言葉はない。

 

"何か月ぶり"

なんて数えることもしない。

 

それでも、

大好きな人が帰ってくる日は、

ちゃんと分かるんだね。

 

私はしゃがんで、

あなたの頭をそっと撫でた。

 

「ただいま。」

 

そう言うと、

あなたは嬉しそうに目を細めて、

まるで、

 

「おかえり。」

 

そう返事をしてくれた気がした。

 

「おかえり。」
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