この子がつくった家族

 

ふたりで暮らして、もう何年になるだろう。

 

子どもはいない。


それが当たり前のようで
どこか少しだけ、言葉にしないものがあった。

 

会話はあるし
笑うこともある。


けれど、
静かな時間も多かった。

 


 

あの子が来たのは、そんな頃だった。

 

小さくて、落ち着きがなくて
家の中をちょこちょこと走り回る。

 

最初は
ただ賑やかになっただけだと思っていた。

 


 

でも、少しずつ変わっていった。

 

朝は「おはよう」より先に
あの子の名前を呼ぶようになって。

 

帰ってきたら
玄関に迎えに来るその姿に
自然と笑ってしまう。

 

何気ない一日が、
少しだけ、やわらかくなっていった。

 


 

ある日、ふたりで言い合いになった。

 

些細なことだったと思う。


今では何がきっかけだったかも覚えていない。

 

声が少し大きくなって
お互いに目をそらしたとき――

 

あの子が、

ゆっくりと二人の間に座った。

 


 

どちらを見るでもなく
ただ静かに、そこにいる。

 

まるで
「ここにいるよ」と言っているみたいに。

 


 

その姿を見たとき
ふたり同時に、少しだけ力が抜けた。

 

言いかけた言葉が消えて
代わりに
小さなため息と、笑いがこぼれた。

 


 

気づけば
あの子を中心に話すことが増えていた。

 

「今日はこんなことしてたよ」
「またあそこに行きたがってた」

 

そんな話を
ふたりで自然にするようになっていた。

 


 

家族って
何だろうと思っていたけれど。

 

きっとこういうことなのかもしれない。

 

誰かがいて
その存在を一緒に大切にして
同じ時間を分け合うこと。

 


 

ふと、あの子を見る。

 

のんびりと横になって
安心しきった顔で眠っている。

 


 

この子は、何も言わない。


特別なこともしない。

 

それでも
確かにここにいて。

 

ふたりの間に
あたたかい何かをつくってくれた。

 


 

「この子が家族を作ってくれたね」

 

そう言うと
隣で静かにうなずく気配がした。

 


 

あの子は
今日も変わらず
真ん中で眠っている。

 

この子がつくった家族
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