手紙

 

父の日。

 

学校から帰る途中、

私は何度も考えていた。

 

今年くらいは、

お父さんに
何か言おうかなって。

 

「いつもありがとう。」

 

たったそれだけなのに。

 

顔を見て言うのは
なんだか恥ずかしい。

 

手紙なら言えるかも。

 

そう思って、

机に向かってみたけれど。

 

書いては消して、

また書いては消して。

 

結局、

小さな紙に

 

「いつもありがとう。」

 

それだけを書いた。

 

でも、

やっぱり自分で渡すのは
恥ずかしくて。

 

リビングで寝転んでいた君を呼んで、

首輪にそっと
その紙を結んだ。

 

「お願い。
お父さんのところに行ってきて。」

 

君は意味も分からないまま、

尻尾を振って
お父さんのところへ走っていった。

 

「ん? なんだこれ。」

 

お父さんが、

首輪の小さな紙に気づく。

 

私は少し離れたところから、

気づかないふりをして
その様子を見ていた。

 

紙を読んだお父さんは

 

何も言わずに、

君の頭を
何度も撫でた。

 

それから、

ぎゅっと抱きしめて

 

「ありがとう。」

 

そう言って笑った。

 

それ、

君にじゃないからね。

 

心の中でそう言いながら、

私も少しだけ
笑ってしまった。

 

言えなかった言葉を、

君がちゃんと

届けてくれた。

 

手紙
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