仕事帰りの夜道で
小さな声が聞こえた。
段ボールの影に
手のひらサイズの子猫が丸くなっていた。
拾うつもりなんて、なかった。
一人で生きることには慣れていたし
誰かの世話をする自信もなかった。
でも
気づいたら上着の中に入れていた。
理由は、よく分からない。
最初の頃は
鳴くし、汚すし、噛むし
正直、面倒なことの方が多かった。
帰ってきても部屋は静かじゃない。
思い通りにいかないことばかり。
それなのに
コンビニでエサを選ぶ時間が
なぜか少し楽しかった。
いつの間にか
「ただいま」と言うようになっていた。
返事はなくても
足元にすり寄ってくる気配がある。
それだけで
今日一日が終わった気がした。
数年たって
子猫はすっかり大人になった。
無口な飼い主と
よく寝る猫。
特別なことは、何もない。
一緒にテレビを見て
一緒に寝て
同じ毎日を繰り返すだけ。
でも
ふとした瞬間に思う。
この部屋に
こいつがいなかった頃の自分は
どんなだっただろう。
思い出せない。
恋人でもない。
家族とも、少し違う。
でも
確かに「相棒」だと思う。
言葉はいらない。
約束もしない。
ただ
今日も同じ場所にいる。
それだけでいい。